10月1日 近況報告と今後について。
10月1日。晴れ。
東京は満月で隣の家族は屋上でお月見をしている。
幸せそうな家庭を眺めながら久々の交信を始める。
9月半ばに「赤とんぼ」を捕まえて欲しい。という仕事依頼があった。面白そうで、お給料までも出るのだからこんなに有難いことは無い。すぐにOKをした。なんでも撮影で「トンボ」が出てくるシーンのカットがあり必要だそうで。早速、虫取り網と虫かごを100円ショップで購入。本当になんでもある。感謝だ。
今年は雨が続いたせいか、例年よりも夏が来るのが遅かったせいで、「赤とんぼ」どころかトンボが居やしない。ネットで調べた昆虫学者に電話してみた。出ない。2、3人電話したけど出なかった。学者先生は忙しいみたいだ。
調べた。調べた。調べた。
埼玉の山奥に「とんぼの湿地」なるものがあると知った。
電車で1時間30分、自転車で2時間・・・自転車を選んだ。
狭山湖を超えて、山を進んで辿り着いたときには自転車で転んで、足から血を流し。
壊れた虫かごには、膝に張る予定の絆創膏で補強をして。辿り着いた「とんぼの湿地」
看板には「虫や花は採らないでください」・・・絶望した。
湿地には「赤とんぼ」が居た。私は帰った。
その山から下りた近くの河原でトンボを見つけた。神はいた。
虫取り網を慎重に構えて背後からスッと捕らえた。ひび割れた虫かごに入れて、大切に持って帰る。次の日に無事に納品。よかった。よかった。
めでたしめでたしと思った次の朝。何気なくコンビニへ出かけると。
赤とんぼが飛んでたんです。
そんな嘘みたいな本当の体験談を頂きました。
ーーー閑話休題ーーー
自分と舞台の話をする。
9月末に舞台を2本観た。
コロナ事情と向き合いながら上演し、お客様もどこかで待っていたように感じた。
客席の私もそうだ。演劇を作る者として待ってた、はずなのに。その板の上にどうして居ないんだ。どうしてこちら側に座っているんだ。と。苦しくなった。
コロナだからできない。お客様も来れないだろう。客席数が減るから。
どちらの舞台もスポンサーや企画会社が居たからできたんだろう。
小劇場はまだ厳しいよ・・・そうか?違うんじゃないか。
そんな言い訳じみた事ばかり並べて。タイミングのせいにしてないか。
どちらも大きな舞台だった。羨望がいつも軸を狂わせる。
他所は他所。自分は自分。わかっているのにどうして苦しいんだろう。
舞台が好きだけど、そこに居ない。現実。
24歳。前田隆成はどこへ行くんだろう。
ずるずると、それこそステージから引き釣り降ろされるような感覚が何夜もあって。
トンボを採れることに喜んでる場合じゃねえだろって。なに面白がってんだって。
軸を忘れていた自分が許せなくて。思い描いていた未来は徐々に霞んでくのに焦って。
ずっと気持ちが悪かった。
事務所の面談でも、オーディションでも。何ができるじゃなくて、何をしたいか。
そのことを執拗に問われたんだ。
演劇が作りたい。そういうと、煙たがられてきた。脚本賞はとったのか?動員は?劇団の中身よりも数。数。数。現実だから。仕方がないと目をそらしてきた。
だから、俳優として「できる事、あるいは経験のあること」を並べて話すけれど、話せば話すほどに「君をどう売り出していいかがわからない」と、「次に出演が決まってない、停滞しているから」その言葉を貰った。恥ずかしくなった。
だからこそ立ち返るときが来た。
そうだよ。俺は今「停滞」している。コロナとか関係なく。
俳優として、作家として、劇団主宰として。全部ひっくるめて人間として。
「停滞している」事実とレッテルを張られて。それでも関わってくれる人は、一握りの可能性。もうスレスレの可能性を信じてくれている。家族であり、劇団員であり、職場の親方も。
そんなことない。進んでいるんだ。そう言い切りたい。が、まずは認めるんだ。
第一線で活躍する人たちが、狂うようにやって得る当たり前をまだ私は物にできていないと認めるんだ。認めたうえで何ができるのか。
他人は他人。自分は自分。そんなことは知っている。
その自分は他人と比較されて形成される。その現実がある限り。
勝ち負けじゃないところまで、勝ち抜かなきゃ。生きて行けない。
その勝ちに価値があるのかは知りもしない。
選ばれなかったことを「運」のせいにだけはするな。
書く。演じる。観る。動く。感じる。
すべては舞台に返ってくる。信じて。
言い聞かせて、訛った筆と体を叩き起こす。
満月の周期は約29・5日と言われている。
来月の自分がこの文章を観て笑えたら。
今日だけ頑張る。それを毎日やるんだ。
ご愛読、感謝します。
ーー散文終了ーー
次回公演は10月20日㈫
◎30×30参加公演『空箱』を上演します。
19:00~/20:30~の2公演。
大阪の「in→dependent theater1st」
ハコボレに用意されたチケットは限定30枚。
お早めにご予約いただけますと幸いです。
この一夜を楽しみにお待ちください。
ご予約と詳細はこちらから。
前田隆成